『松島四大観Plus〜これぞ松島!超絶オススメな眺望スポット』(4/5回)
【松島四大観Plus:#04 偉観・多聞山-編】古くからある「眺望してこその松島」という声と景色を、宮城ゆかりの文人、島崎藤村は「松島の美は天の美と水の美なり」と残し、その変化こそを、見ての松島と表現する。そんな見晴らし絶景を儒学者の舟山萬年は、松島四大観(雄観・麗観・幽観・偉観)にまとめたという。ならば遠足気分でと、偉観・多聞山(七ヶ浜町代ヶ崎浜八ヶ森)に足を運んでみましたよ。さぁ、眺望スポットを旅のプランにつけ加え、あなたもフルスイングで松島を満喫してはみませんか?
日本三景随一の眺望を偉観で楽しんで旅を100%満喫してみよう
藤村先生曰く、ことばも絵もいくらかさねても足りない松島の自然美
日本三景随一と称される松島。なぜに随一と称されたかといえば、古典を紐どいていくとなんとなく見えてくる。多くの先人たちが記すのは「眺望してこその松島」ということ。そして、自然の織りなす造形美と変化をおして随一とするふしがある。
そんな様子を、短い期間とはいえ東北学院で教鞭をとっていた島崎藤村は、”静かにして麗しく、暖かにして清く、書も及ばず筆も及ばず、優和なる自然とは之をいふか”(『一舟葉』「松島だより」より)という。「松島という自然美は、いくら言葉をかさねても、いくら絵に描きつくしても、本物には遠くおよばない」といったとこでしょうか。
というわけで、松島の旅をゆで卵に例えるならば、瑞巌寺に五大堂、円通院に、遊覧船、そして、牡蠣に穴子の観光グルメのスポットは、その外をなす白身のようなもの。松島の本質を一望するととらまえるならば、眺望をして黄身も食さねば100%満喫のぺろり旅とは行きますまい。
そんな眺望を、 江戸から明治にかけての儒学者、舟山萬年は、100回くらい松島に足を運びつつ『鹽松勝譜』*1を編纂。「松島四大観(壮観・麗観・幽観・偉観)」と呼ばれる眺望スポットを世に知らしめ、現代に至る。今回は、その中の偉観・多聞山について見ていきましょう。
多聞山を、なぜ偉観というのだろうか?
ところで松島四大観は、どれが一番ということではない。あくまでも、それぞれの眺望をその特徴であらわしたスポット。そのことは、
富山ハ麗ヲ以テ勝ル、扇渓ハ幽ヲ以テス、大高森ハ壮ナリ、多聞山ハ偉ナリ、四處對崎シテ松島ノ観全シ
『松島案内』著・岡濯 松島四大観 より
ということばからも見て取れる。ただ、「麗・幽・壮・偉」で松島の景観を網羅するってことでしょうから、四大観すべてまわれってこと?いやいや、先人も無茶を云う。
そして、あなたがこれから足を運ぼうとしている多聞山ですが、なぜ偉観と呼ばれるのでしょうか?
それは、三丈的表現でいうと、ズバリ!堂々たる様を心に刻め!といったところ。単純に「偉」ということばからすると、なみはずれてすぐれた景色を意味しましょう。ただ、四字熟語の、「容貌魁偉(ようぼうかいい)」ととらまえるならば、その意味は顔つきよく堂々たる様子。外洋の荒々しさと白波、それでいて島々との距離感の近さからすると、容貌魁偉ということばが、多聞山にはよくにあう。
ということで、ここからは、三丈のお散歩写真で、そんな距離感を感じてもらい、あなたにもちょっとでも行ってみたいなと思ってもらえると嬉しいっすかね。
松島四大観・偉観(多聞山)’Sフォト
別日の雨の日のものですが、青空に入道雲とかだったら夏らしい素敵な構図かね。
只野真葛女史がみた代が崎と多聞山
郷土ゆかりの文学者只野真葛女史。塩竃の港から舟で出て、代ヶ崎にて上陸。その後、吉田浜、花渕、菖蒲田浜と七ヶ浜をあるいて遺した『磯づたい』という紀行文がある。海士人(あま)の営みをつよく感じさせる作品である。
さて、不思議なもので、この作品、代ヶ崎にて上陸したのに「多聞山といふ十五丈あまり有る山を登る。頂きに多聞天の御堂有り。そがひを顧れば、えもいひやられんや、、」みたいに毘沙門堂から松島を望んだ、といった記述がない・・。その代わりといってはなんだが、以下のように記述している。
はちか森という所にのぼりてみれば、來しかたの舟路を淸しめづらしと思ひしはかずならず、おもしろきさきゞゝに、波の打寄するさま、はてもなき海原に、釣舟のうらゝにうかべるなどいふよしなし。
『女流文学全集-第3集-』 (古谷知新 編 文芸書院) 「以曽都堂比」 只野真葛 より
「はちか森」は、多聞山のあたりの一帯の丘陵のこと(多聞山の住所は、七ヶ浜町代ヶ崎浜八ヶ森)。そこにのぼり、乗ってきた舟の航路をふりかえり見れば、めずらしくもあり、面白くもあり、それはもう表現しようがない、と多聞山からの景色を楽しんだらしい。やはり舟山萬年が四大観として世に知らしめるまでは、多聞山はマイナースポットだったってことでしょうか・・。ちなみに、眞葛女史、代が崎では、浜の人に、鯨についてのうんちくを聞かされなにげに詳細に記している。
先人たちがみた松島・島崎藤村-編
松島の美は天の美と水の美なり。散布せる諸島は松と岩とを載せたる舟の如きなり。かく迄も廣く麗しき自然の、天の力をかりて朝暮に變化するを見るときは、自然に恐怖し自然を驚嘆するの心反て減少し、之を親しみ、之を楽しみ、反て自然と遊ばんと欲するの心を生せしむ。是れ境によりて情を生じ情によりて境を思ふが爰ならん。
『一葉舟』著・島崎藤村 「松島だより」 より
紀行文『一葉舟』の「松島だより」からの一節。ともに旅をした仙台の友人の嘆き(さくっと松島に来て、キョトンとして松島を貶す人がいるという話)に対する島崎藤村が考察した松島についてのある種の答え。自然へのアプローチ、自然とのむきあい方によって、松島の見え方や評価は左右されるといったところ。さぁ、あなたは、松島の何を見にいきますか?
偉観・多聞山へのアクセス情報ほか
周辺地図
偉観・多聞山データ
所在地 | 宮城県宮城郡七ヶ浜町代ヶ崎浜八ヶ森 |
標高 | 56m |
徒歩 | JR本塩釜駅よりおよそ7.2km(徒歩1時間30分くらい)*1 |
車 | 三陸自動車道 松島海岸ICよりおよそ10.3km*1 JR本塩釜駅よりおよそ7.3km*1 |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
難 易 度 | ★★☆☆☆ |
*1 グーグルマップのルートにて計測
*2 おすすめ度・難易度ともに四大観のなかで、三丈の独断と偏見による評価
ワンポイントアドバイス
四大観のなかでは、もっとも登りやすいスポット。ヒールは流石にという感じですが、ちょっとおしゃれな靴でも無理ではない。
駐車場広めでトイレやベンチなども整備されているので、軽いピクニック感覚で足をはこびたいところ。ドライブがてら楽しむには、とてもオススメ。
また、島々との距離感がとても近いのも特徴。数ある島々のなかでも珍しい形で有名な「仁王島」も、おしゃれミラーレス一眼レフをお持ちなら、なにげに狙ってみたいところ。
まとめとよもやま話
国語の教科書の随筆などでよく見かける作家さんのちょっと黒歴史
かつて中学生、高校生の国語の教科書の随筆・随想で名前をよくみた佐藤春夫。いまでも載っていたりするのでしょうか? さて、この佐藤春夫もまた『松島の一瞥 』という紀行文を記している。ちなみに、一瞥は「いちべつ」と読むのだけれど、意味としては流し見ること。紀行文のタイトルとしては「松島をながし見る」な意味合い。そして、ここでのコメントは、なにげに辛辣。あえて引用せず三丈的デフォルメ表現にすると、、、
” はぁ、松島だぁ!風光明媚だぁ〜!
実家の近所(和歌山県新宮市)の浜辺をでかくしただけじゃねぇか!
つーか、舟の上だけど、トイレにいきたくて集中できねぇ〜!! ”
【超意訳】『日本の風景 』著・佐藤春夫 「松島の一瞥」より抜粋改編
と、ポジティブな印象にはならなかったらしい・・。まぁ、たしかに新宮市なら目と鼻の先に、鯨で有名な太地町がある。あの入江・湾を思えば、言わんとすることもわからなくはない。ただ、のちに、与謝野鉄幹に松島についてのお題をもらう。そこで、「自然へのむきあい方」に気がつくところがあり、考えを改めたとのこと。
ただ、反骨と諧謔(かいぎゃく・意味は、ユーモア)はわかりますが、斜に構えすぎるのもいかがなものかと・・
松島四大観の偉観・多聞山のまとめ
いい加減、そろそろまとめ。仙台から車なら、最寄りの四大観が偉観・多聞山。県道58号線(塩釜七ヶ浜多賀城線)で、ビーチの横をドライブすると、気分はどこかリゾート地。
その先にある多聞山から望む松島は、島々との近さからくる迫力と、巌にあたり波が砕ける力強さを見せつける。短いことばで重ねるならば、「雄々したる松島」、「堂々たる松島」といったところかしらん。そして、その実、なにを楽しんでいるのかと云えば、白い岩肌の島と砕けた白波の自然がつくりし造形美。
また、仙台からJRで、午前中から松島にいくのなら、帰りは塩釜まで遊覧船でもどりつつ、カーシェアリングで夕日を背に偉観・多聞山を楽しむなんてのも有りかもしれません。地図を眺めて旅を考えるのも、これまた一つの楽しみ。
ところで、三丈さんが撮影に行った日のこと、塩釜港の方から空気を引き裂くような
グウィ〜〜〜〜ン!!バリバリバリバリバリバリ−−−−!!!
というジェット音が・・。エフツー!エフツー!エフツー!F2!と興奮で身構える。
キターーー!と大興奮。でも、セットしていたレンズは最大望遠150mm・・ うーん、機体がめちゃ、小さい・・
ちなみに、内緒だけど三丈はブルーインパルス好きである。
ということで、#04幽観・扇谷編はこれにておしまい。次回の#05は、エクステンド(新富山、西行戻しの松公園、双観山)編になります。よろしければ、再びのおつきあいをお願いします。
出不精な三丈が云うのもなんですが、たまにはあなたも遠出をして、お散歩なんかしてみませんか。
シリーズ『松島四大観Plus〜これぞ松島!超絶オススメな眺望スポット』(全5回)
#01[壮観・大高森]空と海の共演、松島の壮大なパノラマを一望せよ
#02[麗観・富山]明治天皇・文人らも登りし美しき松島を一望せよ
#03[幽観・扇谷]松島の深山幽谷の趣を、扇にみたて一望せよ
#04[偉観・多聞山]外海の荒々しさ、白波と松島を一望せよ←今回はココ
#05[エクステンド]時間が足りない!?まだある松島を楽しむ眺望は・・
*1『鹽松勝譜』
宮城県内の多くの図書館が所蔵している『仙台叢書 』の别集第四卷にて閲覧可能。読み下すのは大変かもしれませんが、チャレンジしてみよう!