【麗観・富山】明治天皇・文人らも登りし美しき松島を一望せよ【四大観】

おとなの遠足

『松島四大観Plus〜これぞ松島!超絶オススメな眺望スポット』(2/5回)

【松島四大観Plus:#02 麗観・富山-編】古くからある「眺望してこその松島」という声と景色を、宮城ゆかりの文人、島崎藤村は「松島の美は天の美と水の美なり」と残し、その変化こそを、見ての松島と表現する。そんな見晴らし絶景を儒学者の舟山萬年は、松島四大観(雄観・麗観・幽観・偉観)にまとめたという。ならば遠足気分でと、麗観・富山(松島町手樽三浦)に足を運んでみましたよ。さぁ、眺望スポットを旅のプランにつけ加え、あなたもフルスイングで松島を満喫してはみませんか?

皆、大仰寺の庭からの眺めを求める

日本三景随一の眺望を富山で楽しんで旅を100%満喫してみよう

文人に、わかれ難く、忘れることができないと云わせる景色

空の青、海の青、松の青、陸の青、同じ青でも異なる色の世界

日本三景随一と称される松島。なぜに随一と称されたかといえば、古典を紐どいていくとなんとなく見えてくる。多くの先人たちが記すのは「眺望してこその松島」ということ。そして、自然の織りなす造形美と変化をおして随一とするふしがある。

そんな様子を、『蒲団』『田舎教師』などの作品で有名な田山花袋は次のように記している。”富山の上には、大仰寺といふ寺があつて、そこから一面に松島灣を見渡すのである。ー(中略)ー私は秋の午後四時すぎに見たが、夕日の一面に灣にかゞやいた景は、今でもわすれることが出来ない。(『一日の行楽』著・田山花袋「松島遊覧」より)”という。

なお、楽しみすぎた田山花袋、松島を離れがたくて鹿島台駅まで12キロくらい歩いたらしい・・。人は、これを乗り遅れという。

というわけで、松島の旅をゆで卵に例えるならば、瑞巌寺に五大堂、円通院に、遊覧船、そして、牡蠣に穴子の観光グルメのスポットは、その外をなす白身のようなもの。松島の本質を一望するととらまえるならば、眺望をして黄身も食さねば100%満喫のぺろり旅とは行きますまい。

そんな眺望を、 江戸から明治にかけての儒学者、舟山萬年は、100回くらい松島に足を運びつつ『鹽松勝譜』*1を編纂。「松島四大観(壮観・麗観・幽観・偉観)」と呼ばれる眺望スポットを世に知らしめ、現代に至る。今回は、その中の麗観・富山について見ていきましょう。

富山を、なぜ麗観というのだろうか?

県道27号線(奥松島パークライン)からの入口案内表示

ところで松島四大観は、どれが一番ということではない。あくまでも、それぞれの眺望をその特徴であらわしたスポット。そのことは、

富山ハ麗ヲ以テ勝ル、扇渓ハ幽ヲ以テス、大高森ハ壮ナリ、多聞山ハ偉ナリ、四處對崎シテ松島ノ観全シ

『松島案内』著・岡濯 松島四大観 より

ということばからも見て取れる。ただ、「麗・幽・壮・偉」で松島の景観を網羅するってことでしょうから、四大観すべてまわれってこと?いやいや、先人も無茶を云う。

そして、あなたがこれから足を運ぼうとしている富山ですが、なぜ麗観と呼ばれるのでしょうか?

それは、三丈的表現でいうと、ズバリ!そのバランス美を目に焼き付けろ!といったところ。天空の青、海の青、松の青、稲穂など陸の青、異なる青のコントラストとバランス。ほぼ正面に多聞山、左に大高森、右に扇谷(五大堂方面)と松島全景を見渡す均整のとれた美。いわば、松島のダイヤモンド・フォーメーション!そんな、美麗なる景観を楽しみましょう。

(仮)『カラーで蘇るパノラマ』(阡三出版)「松島・富山」より  ?

ということで、ここからは、三丈のお散歩写真で、あなたにもちょっとでも行ってみたいなと思ってもらえると喜しかばい。

松島四大観・麗観(富山)’Sフォト

麗観・富山の展望付近の老杉(ろうさん)、ここはまるでパワスポか!
松島から小舟にのり、近くの瀬から茅はらと小高い丘をこえるのが江戸時代のよくあるルート

手前にみえる緑のあいまが、もしかして背丈ほどの葦や茅の原か?

展望台からちょろりと下がると大仰寺
富山観音堂・案内板

江戸時代、背丈ほどの茅と山を越えての富山観音堂

坂上の田村麿のすゑそめたりしを傳えて

江戸時代、文学者只野真葛女史は、松島の旅の紀行文のなかで、富山への道を次のように綴る。

人に扶けられても、足のたゆさに堪へかねて憩ひがちなり。坂十餘り三つばかり越えて、頂きに馬頭観音の御堂有り。此の御堂は坂上の田村麿のすゑそめたりしを傳えて、修理したるものなりとぞ。

『眞葛ががはら』著・只野真葛「松島のみちの記」より
現代でもこの石段を登るのは息が上がりそうになる

眞葛女史、富山の麓へは、背丈をこえる茅はらを抜け、10mくらいの岩山をよじ登りたどり着いたらしい。そのため休憩まじりの山頂の観音堂。女史には厳しい道のりだったことが伺える。

先人たちがみた松島・田山花袋-編

真ん中付近の隙間のある島が鐘島

十一時頃漸く子供達は歸つて來た。
「何うだつた?」
かうきくと、
「よかつた!總観山なぞよりもぐつと好い。」かう總領の男の兒が言つた。私は初めて此處に來た時のことを思ひ出した。松島に來ても、晝飯も食はず、そのまゝ歩いて富山に行き、そこからまた鹿島臺まで三里も歩いて、
「松島にわかれ難くて旅枕今日やとりのおくれたるかな」
といふ歌を詠んだが、その鹿島臺驛の前の旅舎のことなどがはつきりと思ひ出された。私も一緒に行つて見れば好かつたと思つた。

『花袋紀行集. 第3輯』田山花袋 -松島日記-より

先に、『一日の行楽』という紀行文(”富山の上には、大仰寺といふ寺があつて・・云々”と引用したところ)から数年後、子連れで再び松島を訪れた田山花袋。12月31日というので、大晦日に客足のない松島を独占する旅を実行。舟に乗り、双観山で見晴らしを楽しんだらしい。

翌1月1日、近所のお子をつかまえて、うちの子どもを富山に連れて行ってくれないか?と自分は宿でひと仕事。そして、昼前にもどってきた子どもそこで子ども口からでてきたのが、「よかつた!總観山なぞよりもぐつと好い。」ということば。そのことばに、そはじめて松島を訪れたとき、はしゃぎすぎて汽車に乗り遅れ、鹿島台までの10キロ強を歩いたことを思い出す。なんともコミカルなエピソードである。まぁ、イレギュラーなこともまた、旅には欠かせない一コマ。

あなたもイレギュラーな旅の思い出の一つやふたつ、お持ちでございましょ。

大仰寺のガラスに、島々を映せないか狙ったが無理だった・・

麗観・富山へのアクセス情報ほか

天気によってパノラマ写真は難しい・・

周辺地図

麗観・富山データ

四阿から望む麗観
所在地宮城県宮城郡松島町手樽三浦
標高116.8m
徒歩JR仙石線富山駅よりおよそ1.7km(徒歩25分くらい)*1
三陸自動車道 松島北ICよりおよそ6km*1
おすすめ度*2★★★★★
難易度*2★★★★☆

*1 グーグルマップのルートにて計測
*2 おすすめ度・難易度ともに四大観のなかで、三丈の独断と偏見による評価

ワンポイントアドバイス

対向車いるとちょっとコワイ・・

富山への道のりは大きく2ルートあります。国道45号線側からのルートと奥松島パークライン(県道27号線)からのルート。車の止めやすさからすると、国道45号線からのルートが吉かと。まぁ、奥松島パークラインからのルートのほうが古式ゆかしい雰囲気ありますが、対向車にご注意を。

また、大仰寺の前に整備された水洗トイレもございます。安心して眺望を楽しめるという面でオススメかもしれません。

ただし、急な石段を歩くことになるので、間違ってもヒールのあるようなおしゃれ靴ででかけることの無きよう、お願いします。

まとめとよもやま話

明治天皇富山御小休所の石碑と大仰寺

麗観・富山を訪れし明治天皇、ほどなく愛馬「金華山號」と出会う

大仰寺には「明治天皇富山御小休所の石碑」がありまして、松島の眺望を楽しまれたことを伺わせる。さて、明治大帝、この明治9年の巡幸にて一頭のお馬さんにであう。それがとても愛されていたとされる御料馬、金華山號

松島の浮める島々のごとき馬たちのなかから、選ばれし鬼首産の御料馬の名が金華山號とは・・。なんでしょう、麗観・富山からの松島の景が導いたものでしょうか。

主馬神社(鬼首・荒雄川神社境内)の御祭神(金華山号の木像)

なお、金華山號は、いちどは埋葬されたものの、明治大帝の命で掘り起こされ、今でもその剥製が、聖徳記念絵画館にて展示されている。

三丈樹乃
みちのくに 浮かぶ島々 あるなかで めにとまりしは 金華山かな

あいかわらずのおじさん川柳・・。

松島四大観の麗観・富山のまとめ

雨の日はしっとりした#5C5D31藍海松茶(あいるみちゃ)の世界

そろそろまとめてまいりましょう。富山には、明治大帝の以外にも、芭蕉と曾良、只野真葛に田山花袋、吉田松陰、と、俳人、文人、詩人に限らず、数多くの著名な方々が、なにげにその眺望を楽しんみ、なにかしらの記録をのこしている。では、なぜ富山なのだろうか?

そんなヒントを、大正時代のガイドブックに引用してみましょう。

松島の景は松島にあらずして富山にあり

『関東奥羽名勝案内』著・黒岩芳泉

文章そのもは、お江戸の時代から語られていたことを読み下したもの。さくっと云えば、「松島にいっても松島はない、眺望(富山)にこそ、その本質があるのだよ」と。舟山萬年が松島四大観を世に知らしめるよりも、もっと前から、日本人が松島を景を楽しんできたからにほかありますまい。

ということで、#02麗観・富山編はこれにておしまい。#03は、幽観・扇谷編になります。よろしければ、再びのおつきあいいただけると幸いです。

出不精な三丈が云うのもなんですが、たまにはあなたも遠出をして、お散歩なんかしてみませんか。

シリーズ『松島四大観Plus〜これぞ松島!超絶オススメな眺望スポット』(全5回)

扇谷ちょっと近く、仙石線の車窓から初日の出

#01[壮観・大高森]空と海の共演、松島の壮大なパノラマを一望せよ
#02[麗観・富山]明治天皇・文人らも登りし美しき松島を一望せよ←今回はココ
#03[幽観・扇谷]松島の深山幽谷の趣を、扇にみたて一望せよ
#04[偉観・多聞山]外海の荒々しさ、白波と松島を一望せよ
#05[エクステンド]時間が足りない!?まだある松島を楽しむ眺望は・・

*1『鹽松勝譜』
宮城県内の多くの図書館が所蔵している『仙台叢書 』の别集第四卷にて閲覧可能。読み下すのは大変かもしれませんが、チャレンジしてみよう!